八王子のまちなかで造る日本酒の生酒。『東京八王子酒造』の魅力に迫る

『東京八王子酒造』は、東京で令和初・10番目の日本酒醸造所として、八王子の中心市街地に誕生しました。小さい醸造所だからこそできる徹底管理された環境のもと、今までになかった新鮮で飲みやすい生酒の日本酒を醸造している酒蔵です。同酒造の代表・西仲さん、杜氏・磯崎さんに、これからの日本酒のあり方、そして自分たちが目指すビジョンについてお聞きしました。

新しい日本酒のカタチを創造する

八王子駅北口から徒歩5分、宿場町として栄えた八王子の面影が残る黒塀通りの一角に東京八王子酒造はあります。

「敷居が高いと思われがちな日本酒のイメージを変えて、日本酒の飲み手を増やしていきたい」という思いから、今までの日本酒の概念を覆す、飲みやすさと鮮度を追求した新しい日本酒造りに挑戦し続けています。

また「酒造りは農業の延長線上にある」という考えのもと八王子の有志の農家の方たちと酒米づくりを行っており、八王子産米も使った酒造りをされています。

八王子市高月町の農家で行う酒米づくり

「日本酒を楽しみたい、興味があるという人はたくさんいるはずなんだけど、なかなか一歩踏み出せない人が多いんだと思う」と語るのは、同酒造の代表・西仲さん。

同酒造がつくる新鮮な生酒の特徴についておうかがいしました。

――東京八王子酒造の特徴は?

一般的に流通している日本酒は、基本的に火入れをしています。火入れすることで、酵母や麹の発酵が止まり味が一定になります。いまは技術が進化して温度管理、環境管理をしっかりとできるようになり、火入れをせずに酵母・麹が生きている状態の『フレッシュな生酒』を提供できるようになりました。

ただ、酒蔵は基本的に身近な場所には無いので、生酒がどこでも気軽に飲めるというわけではありません。そこで、あえて駅近くのまちなかでコンパクトに作ることで、徹底した環境管理で四季醸造が可能になり、常に新鮮な生酒を提供できるようにしたのが東京八王子酒造です。

――ここだからこそできることは?

お米や麹、水によって酒の味は変わってきますが、気候もかなり重要です。そのため、5~10度の温度管理を徹底しています。温度の変化というのはお酒にとってストレスになるんですよ。

うちでは24時間365日、温度を極力変化させないようにしています。一定の環境を保つというのが難しいし気を遣いますが、うちは敷地が狭く、1回の醸造量も少ない。大きく仕込むより小さく仕込んだ方が管理しやすいのが利点で、私たちが考える理想の日本酒を造るためにさまざまなチャレンジができています。

日本酒をもっと身近に楽しめる場に

金・土・日曜日、および祝日限定で、同酒造の併設のショップでは醸造して間もない新鮮な生酒を購入することができます。

醸造した日本酒はケグで品質管理されています。ケグで管理することにより酒の鮮度を保ちつつ、見た目や売り方も新しく洗練された印象を与えています。

店頭で注文を受けてから、空瓶にフレッシュなお酒を詰めて販売。日本酒というのは、同じ材料を使って同じ銘柄の酒を醸造しても、仕込みで違う味に仕上がるそうです。そういった繊細さが日本酒の面白いところなのだそうです。実際、同じ銘柄で仕込みの違うお酒を飲み比べさせていただきましたが、香りの深みやまろやかさが違っていて驚きました。

杜氏・磯崎さん

醸造されたばかりの『prototype 1』を試飲。

口に含んだ瞬間、はじける感覚があります。微炭酸なのかな?と一瞬勘違いするほど!果実のようなジューシさが豊かに広がります。数秒の余韻を残しさわやかに抜ける飲み口は、どんな食事にも合いそうです。 醸造したてのお酒は荒々しく舌がピリピリする感覚がありますが、日にちを置くとほんの少しまろやかになり、違った味わいが顔を出してくるそうですよ!

採れたての『酒粕』。ショップで販売されている酒粕は、ふっくらしっとりとした食感をしています。

同酒造の酒粕を使った『酒蔵のジェラート』も人気商品!酒粕の芳醇で濃厚な味わいが特徴的な大人のジェラートです。

また、同じ建屋に花柳会の風情を残す料亭『すゞ香』がございます。こちらで、同酒造のお酒と一緒にお食事もできます。
完全予約制です。

日本酒の魅力をさらに多くの人に伝えるため、イベントの参加にも積極的です。桑都テラスが主催するイベント『花街 日本酒吞み歩き』に参加。他にも、八王子駅前で生酒をその場で瓶詰して販売するイベントを開催。八王子駅前の販売イベントでは醸造してからわずか3日以内の鮮度が高い生酒を提供し、好評に終わりました。

日本酒造りの工程を深掘り!

同酒造では、『すゞ香』をご利用のお客様に限ってではありますが、醸造の作業風景がご覧いただけます。

まずは、蒸し米に麹菌をふり麹をつくります。

蒸し米、水、麹に酵母を加え、酒母(もと)をつくります。つくった酒母へ麹、蒸米、水を加え、発酵した状態のものを『もろみ』と呼び、もろみがやがて原酒となります。

多くの醸造所は、発酵を終えたもろみに圧搾機を使って酒を抽出していますが、同酒造ではもろみに重りを乗せて自然に抽出しています。圧搾機を使うと粕が板のように平たくなるまでお酒を搾るため、お酒に雑味が感じやすくなってしまうのだそうです。一方、同酒造では、上澄みの部分のみを抽出。原価が高くなるうえ手間がかかってしまいますが、その分おいしいお酒を作ることができるのだとか。

都市型醸造所の酒造りにかける想い

都市型醸造所、コンパクトだからこその利点、同酒造の醸造のこだわりを磯崎さんにおうかがいしました。

――東京八王子酒造の強みを教えてください。

新たな日本酒造りに挑戦できるのが一番の強みです。いままで、酒造りには広いスペースが必要だと言われていました。従来の酒蔵では大きなタンクしかないので大量に醸造する必要があるのですが、失敗してしまったら大きな損失になりますよね。なので、なかなか挑戦がしづらい。東京八王子酒造は小さなタンクで醸造しているので、小回りの利いた失敗を恐れない酒造りができるんです。

――小さい酒造の特徴について教えてください。

小さいタンクの方が温度管理を均一にしやすいです。容器が大きいと縦長になるので、もろみが滞留してしまう。すごくゆっくり動くので、上と下でばらけやすくなるんですね。タンクが小さい方が発酵もまんべんなく丁寧に行われます。そのため、小さいタンクの方がコントロールしやすく良い酒ができる傾向があります。という利点はあるものの、小さいものの方が癖が出やすく難しいところがあります。それに、量がつくれないためコストがかかってしまう。つまり、安くは売れないんです。一長一短がありますね。

――さきほど試飲させていただいたお酒は癖をあまり感じませんでした。それはどうしてなんでしょうか?

新しい蔵なので、特有の癖みたいなのがまだ無いんです。他の蔵は何百年と続けてきているので、その蔵独特の蔵癖というのがあります。古い蔵には酵母などが染みついていて、それが蔵の癖になってきます。

古いものにも良さがあるのと同じように、新しいものにも良さがあります。新しいというのが今の東京八王子酒造の特徴になるけれども、今後は東京八王子酒造特有の味というのが出てくるはずですよ。

――日本酒を造っていて難しいと思う点はどこですか?

コントロールですかね。酵母も生き物なので、いつも同じようには動いてくれないんです。いかに自分の思い描いているところに導くかが難しいです。行ってほしいところに線を引いたり、発酵を進めるために少しだけ温度を上げたり、逆に進みすぎてしまわないよう少し温度を下げたり。毎日分析をしながら様子を見ていきます。そういうコントロールが大事になってくるんですね。

――杜氏さんによって全然違う味になるそうですが、どういう違いがあるんでしょうか。

この状態の時に『こうなるだろう』という予測ができているかどうかです。予測できるかは、経験から身に付く部分です。日本酒造りは数値に表せるところもあるのだけれど、表せられない部分もあって・・・そこが難しいところではあります。

――東京八王子酒造のお酒が本当にすうっと飲めてしまうことに驚きました。

飲みやすいというのを第一に、普段お酒を飲まない人にも「こんなお酒あるんだ」と思ってもらえるといいなと思っていたので、その言葉を聞けて嬉しいです。そう思ってもらえるようなお酒を造るというのが自分たちの1つの目標だったので。旨みがあるんだけれどもキレがあって、すっと消えるお酒を目指しています。もっともっと『飲みやすい日本酒』を目指していきたいなと思っています。

新鮮な日本酒がいつでも飲める『蔵人舞姫』

同酒造から徒歩1分。『蔵人舞姫』があります。蔵元に足を運ばなければ味わえない鮮度の高い日本酒を提供することをモットーに、食中酒としての​日本酒の価値向上に努めておられます。​こちらも西仲氏が代表を務めているお店です。

ずらりと並ぶカウンター席。

ゆっくりとお食事を楽しみたいときには個室がおすすめ!

同酒造の『prototype』の生樽が置かれているので、常に新鮮な生酒をいただけるのも魅力的。

鮮度抜群な日本酒と、お酒に合う信州料理が満載のメニュー

先にご紹介した樽生ドラフト日本酒をはじめ、お酒造りを通じて八王子を盛り上げようと始まったプロジェクト『はちぷろ』で造られたお酒『髙尾の天狗』など、おいしい日本酒が用意されています。
季節によってメニューが変わります。

信州の名物の軍鶏料理や、季節のお料理がたくさん!
季節によってメニューが変わります。

酒粕チーズ豆腐 780円

『東京八王子酒造』の酒粕が使われたチーズ豆腐。口当たりが柔らかくクリーミーな酒粕の風味、黒蜜、クラッカーの塩気が合う!ぜひprototypeと一緒に楽しんでほしい逸品です。

黄金シャモのすき煮 1,180円

長野の牧場から直送されている軍鶏を使用しており、レアでも食べられるほど新鮮。ししとう、長ネギ、豆腐が入っています。食べた瞬間、とろみの付いた甘辛のタレと軍鶏の旨みが口の中に広がります。


ちの

取材を通して代表・西仲さんと、杜氏・磯崎さんの熱い情熱がひしひしと伝わってきました。試飲させていただいたprototypeがあまりに飲みやすかったので、後日ショップまで買いに行きました(笑)

私はお酒が弱いのですが、prototypeは飲みやすく、いい意味で日本酒っぽくない。喉が渇いている時に飲んだらグビグビいってしまいそうな飲み口。お酒や日本酒が苦手な人ほど飲んでほしい!そして、日本酒の生酒のおいしさをぜひ知っていただきたいです!

東京八王子酒造

住所
東京都八王子市中町10-9
アクセス
八王子駅北口 徒歩5分
Webサイト
https://tokyo-hachioji-shuzo.jp/
Twitter
@tokyo802_shuzo
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