「なれないと思っていた」10年越しの夢へ。八王子芸者・小鈴さんが紡ぐ“人生の伏線回収”

八王子に息づく伝統文化・八王子芸者衆。2025年6月、新たな一歩を踏み出した新人芸者がいます。10年前、「もうなれない」と諦めかけた夢。しかし音楽や歌舞伎、日本舞踊との出会い、そして以前から学んでいた占星術が重なり、その想いは再び動き出しました。小鈴さんが語る“人生の伏線回収”とは

10年越しの憧れ。一度は諦めた夢への再挑戦

―― 「芸者かわら版」を拝見しました。「地元八王子でずっと憧れていた芸者さんの世界に…」とありましたが、八王子のご出身なんですね。

はい、八王子出身です。母が高尾の生まれで、祖父も高尾の人なんです。子どものころは高尾が庭みたいなもので、しょっちゅう遊びに行っていました。うかい竹亭にも遊びに行きましたね。祖父が働いていたので。

―― 生粋の八王子っ子ですね! 芸者という世界に興味を持ったのは、いつ頃からだったんですか?

もう10年くらい前になります。映画で京都の舞妓さんを見て、「これになりたかった」って思ったのが最初です。でも、その時すでに25歳で、舞妓さんは10代からしかなれないので、もう無理だなって。

―― 一度は諦めたんですね。

そうなんです。でも、その後「東京にも芸者さんがいる」と知って。当時、八王子芸者さんの求人を見つけて、「なれるんだ!」と思ったんですが、お稽古事を何もしたことがなかったので、その時も諦めてしまって…。それでもずっと憧れはあって、今度は歌舞伎を観に行くようになったんです。演目の中に芸者衆が出てくるのを見ては、「素敵だな」って。

―― そこから、どうやって「菊よし」のお母さん(小太郎さん)と繋がったのですか?

歌舞伎をより深く理解したくて、「日本舞踊を習ってみよう」と思ったんです。日本舞踊教室を探していたら、お母さんがやっているお教室を見つけて。体験させてもらって、通うことを決めた日にお母さんが「よかったら芸者さん、目指しませんか?」って声をかけてくださったんです。

―― すごい、運命的な出会いですね!

本当に。「あ、まだなれるんだ」と思ったら、涙が出てきてしまって。嬉しくて…。10年間ずっと憧れてはいたけれど、自分にはなれない別世界のことだと思っていたので。これが最後のチャンスだと思って、飛び込みました。

小太郎さん:彼女が「芸者さんに憧れてるけど、もう年だから」って話していたのを聞いていたんです。でも、諦めることないのにな、と思って。2ヵ月くらい悩んだんですけど、声をかけたら泣いて喜んでくれたので、この子ならきっと頑張れると思いました。

点と点が繋がる「人生の伏線回収」

―― 芸者になる前は、音楽鑑賞やジャズボーカルがご趣味だったとか。音楽はずっとお好きだったんですか?

はい、大好きです。中学・高校では軽音部でエレキベースを弾いていました。ポルノグラフィティさんや椎名林檎さんが好きで。大学ではジャズ研に入って、ボーカルをやっていました。

―― エレキベースからジャズボーカルまで、幅広いですね!その経験が今に繋がっていると感じることはありますか?

まさに今、「人生の伏線回収」をしているような感覚なんです。中学の時、実は軽音部と吹奏楽部を掛け持ちしていて。午前中はベースを弾いて、午後は吹奏楽部で太鼓を叩く、みたいな夏休みを送っていたんです。その時は無我夢中でしたけど、今こうして三味線や鳴り物(太鼓や小鼓)のお稽古をしていると、あの時の経験が無駄じゃなかったんだなって。エモい気持ちになります(笑)

―― すごい!過去の点がすべて線になって繋がっていく感じですね。

「なんで八王子に生まれたんだろう」とか、母の実家が高尾だったのも、祖父がうかいで働いていたのも、全部今に繋がっている気がして。母が若い頃に着ていた着物や帯も、いつか使う時が来るかもと取っておいてくれたものが、今のお稽古で役立っています。

―― 西洋占星術も学ばれているそうですが、それも何か繋がりが?

それが、すごいんです!占星術で見ると、私は2025年の6月から12年に一度の「幸運期」に入るタイミングだったんです。ちょうど日本舞踊を始めて、お母さんから声をかけていただいたのがその時期で。しかも、お母さんも同じ星の巡りだったんですよ。

自分のホロスコープ(生まれた時の天体の配置図)を見ても、ずっと意味がわからなかった「継承」を意味する場所に星が集まっていて。地元である八王子で、伝統文化を継承していくこの道に進んだことで、やっとその意味が理解できたんです。

悔し涙の先に見える理想の芸者像

―― 現在のお稽古は、主にどんなことをされているんですか?

踊りと、鳴り物、三味線です。踊りがいちばん苦戦しています。元々スポーツを全くやってこなかったので…。でも、歌舞伎の踊りの演目を観たときに、ただ「きれいだな」で終わるんじゃなくて、その楽しさや奥深さを自分でも感じてみたくて。今は頑張り時だと思っています。

―― それだけ真剣に向き合っていらっしゃるんですね。

「踊りは“心の表現”。上手なだけではなく、その人の人間性や人生経験がにじみ出るもの」。お母さんが日本舞踊のお稽古のたびに、そう言葉をかけてくれます。私自身もその言葉はすぐに納得できて、たとえば歌が上手でも、なぜか心に響かない人がいるのと同じだと感じています。だからこそ、心を大事にして、豊かな表現ができるようになりたいです。

―― 海外からのお客様も増えていると思いますが、英語の勉強もされているとか。

はい、毎日続けています!以前、百貨店で働いていた時も英語で対応することがあったのですが、もっとちゃんとコミュニケーションが取れるようになりたいですね。芸を通して、海外の方にも八王子の文化の魅力を伝えられたら嬉しいです。

―― 最後に、これからどんな芸者になりたいか、目標を教えてください。

今はまだ、覚えることばかりで試行錯誤している状況です。必死にもがいている最中。でも、この先、点が繋がって線になっていくように、一つ一つのお稽古が繋がって、お客様に楽しんでいただけるような芸をお見せできるようになりたいです。本物に触れられるこの環境への感謝を忘れずに、10年越しの夢を、夢で終わらせないように頑張ります。


八王子ジャーニー編集部

「人生の伏線回収」という言葉が、彼女の歩んできた道と今をやさしく結びつけていました。悔し涙を流しながらも芸に向き合うその姿は、胸を打たずにはいられません。小鈴さんが紡いでいく物語は、これからも静かに、そして確かに続いていきます。

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